糖尿病の人がだるさや疲れを感じる場合、貧血の可能性があります。
放置すると疲労感が強くなったり心臓に負担がかかったりする恐れがあるため、早めの対策が必要です。
この記事では、糖尿病による貧血の原因や症状、日常でできる対策について解説します。
- 糖尿病患者に起こる、貧血の症状やサイン
- 糖尿病性腎症が、腎性貧血を引き起こすメカニズム
- 貧血を放置したときの、心臓や全身への影響
- HIF-PH阻害薬など最新の治療法や、日常でできる改善策
貧血の原因が腎症の進行と関係しているのかを知りたい人は、最後までご覧ください。
糖尿病患者の貧血は腎臓からの重要なサインかもしれない

糖尿病患者の疲れやだるさの背景には、腎症による貧血が隠れている場合があります。
疲れやすかったり階段で息が上がったりする症状は、単なる栄養不足ではない可能性があります。
糖尿病では進行とともに腎臓に負担がかかり、長い治療期間が続くと貧血リスクが高まる傾向があります。
この章では、貧血の症状を見過ごさない重要性や、糖尿病と貧血のつながりについて解説します。
小さな不調でも、体が教えてくれる大切なメッセージとして一緒に確認しましょう。
疲労ぎみやだるいといった貧血の症状を見過ごさない重要性
貧血の症状を見過ごさないために、疲労感やだるさを放置しないのが大切とされます。
貧血は血液中の赤血球やヘモグロビンが不足して、体のすみずみまで酸素が届くのが難しい状態です。
酸素が十分に運ばれなくなると、体はエネルギーを作る力が低下します。
特に糖尿病患者では腎臓の働きが低下して腎性貧血が起きている場合があるため、以下の症状がある場合は、医療機関への相談をご検討ください。
- 動悸や息切れ
- 疲労感
- 免疫力の低下
- 気分の落ち込み
- 集中力の低下
糖尿病の罹患期間が長くなると貧血リスクが高まる理由
糖尿病の期間が長くなるほど貧血が増える理由は、体の中でゆっくり腎臓への負担が積み重なっていくためです。
腎臓は、赤血球をつくるホルモンである、エリスロポエチンを作る臓器です。
腎臓の機能が落ちるとエリスロポエチンが不足し、赤血球を作るのが難しくなり腎性貧血になる可能性があります。
糖尿病の慢性炎症の影響で、鉄が体内にあっても使えなくなる機能性鉄欠乏になると、貧血をさらに悪化させます。
つまり、糖尿病歴が長いほど腎臓の負担が増えてエリスロポエチンや赤血球が不足し、貧血につながるということです。
昔より疲労感を感じたり、だるさが続いたりする変化は、長い糖尿病の影響を知らせる大切なサインともいえます。
糖尿病性腎症は腎臓の障害で赤血球を作る力が弱まり腎性貧血になる

糖尿病の鍵を握るのは腎臓であり、多くの人が見落としている事実です。
糖尿病と聞くと、血糖値や食事、運動を真っ先に思い浮かべる人もいるでしょう。
しかし、腎臓の働きは糖尿病の進行や合併症だけでなく、貧血のリスクにも影響しているかもしれません。
糖尿病性腎症が進行すると、腎臓でエリスロポエチンの分泌が十分に行われなくなります。
赤血球は酸素を運ぶヘモグロビンと結合するため、エリスロポエチンの量が減少すると全身の酸素供給も不足状態です。
全身への酸素が足りないと、だるさや疲労感、息切れなどの症状が起こる可能性があります。
したがって糖尿病患者においては、貧血の予防が腎臓の健康を維持するために大切です。
腎機能の低下がエリスロポエチンの不足を招き貧血が発症する
腎機能が低下すると、赤血球を作るための仕組みそのものに影響がおよび、結果として貧血が起こる傾向があります。
酸素が不足すると腎臓は赤血球が増えるように調整し、エリスロポエチンを増やして身体の働きを保とうとします。
しかし糖尿病によって腎臓の働きが低下すると、赤血球の調整機能がうまく働かなくなり、必要な赤血球を十分に作れなくなる場合があるのです。
結果としてエリスロポエチンの不足が続き、赤血球も足りなくなり、貧血の発症につながります。
腎臓の働きを評価するGFRは貧血発症リスクと深い関係がある
腎臓の働きは、GFRと呼ばれる糸球体濾過率の数値で確認できます。
GFRの数値が高いほど、腎臓が元気に働いています。
腎臓の機能が落ちるとエリスロポエチンの分泌も減り、赤血球数を維持できなくなります。
そのため、貧血の原因が腎臓と関係しているかを知るには、GFRの確認が大切です。
定期的に腎臓の状態を確認して数値の変化を早めに把握すると、貧血の予防にもつながります。
気になる症状がある場合は、早めに医療機関への相談を検討してください。
参考元:腎性貧血
腎性貧血は腎臓由来で鉄欠乏性貧血は鉄不足が原因である
鉄欠乏貧血は、食事や鉄剤で改善できる場合があります。
一方で、腎性貧血は腎臓の働きが低下して、赤血球を作るホルモンであるエリスロポエチンの不足により起こります。
鉄を補うだけでは改善できず、医師の指導でホルモン製剤や薬での治療が必要です。
検査結果や症状をもとに、腎性貧血と鉄欠乏貧血のどちらであるかを見極めましょう。
疲れやめまいなどの症状が続く場合は、適切な検査と診断のために、早めに医療機関の受診を検討してください。
参考元:日本腎臓学会 HIF-PH 阻害薬適正使用に関する recommendation
糖尿病の貧血を放置すると全身の健康に影響を与える可能性がある

糖尿病を放置しておくと、体にさまざまな影響が出る可能性があります。
糖尿病に伴う貧血は、疲れやだるさのみではなく、息切れや動悸が起こったり心臓に負担がかかったりする恐れがあります。
酸素が少ないと、心臓は一生懸命働いて何とか酸素を送ろうとするため、余計な負担がかかってしまいます。
貧血になって体がつらくなり、活動量が減ってしまうと血糖値のコントロールも乱れるためです。
特に、長年糖尿病を患っている人や腎臓の働きが弱っている人は、貧血の悪循環により生活の質まで落ちるかもしれません。
貧血は心臓に負担をかけて心不全のリスクを増大させる恐れがある
貧血による酸素不足を放っておくと、心臓に負担がかかり、心不全のリスクを増大させる恐れがあります。
貧血で体内の酸素が足りなくなると、心臓は不足した酸素を全身に届けようとして、普段よりも強く早く拍動しなければなりません。
特に糖尿病で腎臓の働きが低下している場合、赤血球の調整がうまくいかず、心臓への負担はさらに増大すると考えられます。
貧血の改善は心臓の負担の軽減だけでなく、日常生活の疲れやだるさの軽減にも寄与します。
早めに対応して、健やかな体調を保つのが大切です。
貧血による全身の倦怠感が血糖コントロールを難しくする
貧血による全身のだるさや疲労は、血糖コントロールを難しくする要因の1つです。
赤血球が不足すると体の細胞や臓器に酸素が十分に届かず、常にだるさを感じます。
そのため散歩や家事、軽い運動など血糖値を下げる日常的な活動も控えてしまいがちです。
例えば、散歩や家事を行っていた時間を休息にあてる場合が増えると、血糖値を下げる運動習慣が減少します。
倦怠感や疲労をそのままにせず、早めに医師に相談して貧血を改善すると、良好な血糖コントロールを目指せるでしょう。
最新の治療薬は糖尿病性腎症に伴う貧血の改善に効果が期待できる

糖尿病性腎症に伴う貧血の治療は、従来の方法に加えて新しい薬の登場で選択肢が広がっています。
従来の治療では、鉄剤でべモグロビンの材料を補い、エリスロポエチン製剤で赤血球の産生を促します。
内服や静脈注射により赤血球量を増やして酸素を体に届け、だるさの軽減が期待できる治療法です。
近年は、HIF-PH阻害薬という内服薬も登場し、腎臓貧血の治療に用いられます。
HIFが活性化すると、腎臓や肝臓で赤血球を作るエリスロポエチンが増えます。
PHとは、プロリンヒドロキシラーゼと呼ばれ、HIFを分解する酵素のことです。
HIF-PH阻害薬の利点には、以下のものがあります。
- 注射ではなく、内服薬で使える
- 腎性貧血でも、従来の治療が効かない場合に有効的
- 鉄の利用効率の改善につながる
HIF-PH阻害薬は、体の酸素不足の仕組みを利用して、自然に赤血球を増やす効果が期待できる治療薬です。
貧血の改善が糖尿病治療の質を向上させる可能性がある
貧血の改善は、糖尿病治療の質を向上させます。
体の酸素が不足するとだるさや疲れが続き、運動や家事のような軽い運動を控えてしまう人も珍しくありません。
活動量が減ると血糖値が上がり、治療の効果を感じるのが難しくなるケースがあります。
貧血が改善すると体を動かそうとして、日々の活動量が増えて血糖コンロトールの安定につながるでしょう。
ヘモグロビンが適切な量に戻ると、血糖の状態を示すHbA1cの値が実際の血糖値に近い数値に近づきます。
HbA1cの数値が正しく反映されると、医師が治療方針を立てる際に役立ちます。
貧血の改善は全身の状態だけでなく、糖尿病管理にも良い影響を与えると考えられているのです。
貧血は医師とヘモグロビン値の目安を確認して治療を進めよう
貧血を改善するためには、自分に合ったヘモグロビン値の目標を医師と共有するのが欠かせません。
ヘモグロビン値は血液中の赤血球の量を示す指標で、貧血の状態を直接反映します。
体調は日によって揺れがあり、治療の進み方も人それぞれです。
そのため、自身のヘモグロビン値がどの範囲にあると体調が安定しているといえるのか、医師と一緒に確認してください。
ヘモグロビンの目標値を明確にすると治療の方向性が決まり、落ち着いた気持ちで治療に取り組めるでしょう。
ヘモグロビン値の医師との共有は貧血の改善だけでなく、糖尿病の管理に役立つと考えられています。
毎日の食事の工夫が貧血改善と健康を支える

貧血の改善を目指すには、日々の食生活にちょっとした工夫を取り入れるのが大切です。
例えば朝食に必要な鉄分やビタミンを含む食材を少し加えたり、間食に果物やナッツを取り入れたりすると、体に必要な栄養を効率よく補えます。
さらに食べるタイミングやバランスを意識すると、体に吸収される栄養の効果の向上が期待できるでしょう。
鉄分は空腹時やビタミンCと一緒に摂ると吸収が良くなる傾向があります。
食事の間隔が長いと血糖値が低い状態になり、次に食べる際に急上昇する場合があるため、規則正しく食事を摂るよう心がけてください。
毎日の工夫の積み重ねは貧血によるだるさや疲労感を軽減させ、良好な血糖コントロールや健康な体につながります。
腎臓病食の制限と貧血対策の食事バランスを取る
腎臓に負担をかけずに貧血を改善するには、鉄分やビタミンを含む食品をバランスよく取り入れるのが大切です。
貧血対策に必要な鉄分やビタミンを効率よく摂ると、赤血球の生成が促されて全身への酸素供給が改善されます。
鉄分が多く含まれる食べ物は、以下の通りです。
- 牛肉や鶏胸肉
- 鮭やまぐろやいわし
- 卵
- 大豆や枝豆や豆腐
ビタミンCが多く含まれる以下の食材を同時に摂ると、鉄分の吸収を助けます。
- ほうれん草やブロッコリー
- オレンジやキウイ
- パプリカやいちご
上記の食材を工夫して取り入れると腎臓に負担をかけずに貧血を改善し、体調や生活の質の向上につなげられます。
鉄分やビタミンを多く含む食品を摂取する際は少しずつ摂る
鉄分やビタミンは貧血改善に欠かせませんが、腎臓の負担を考慮して摂取するのが大切です。
例えば鉄分を多く含む赤身肉や魚、豆類は一度に多く食べるのではなく、少量ずつ分けて食べる工夫が有効とされています。
ビタミンCは鉄の吸収を助けますが、サプリメントの大量摂取は腎臓に負担をかける可能性があると知っておきましょう。
日々の食生活でちょっとした工夫を心がけるだけで、貧血の改善だけでなく腎臓を含めた体全体の健康維持にもつながります。
腎性貧血の早期発見と適切な治療で生活の質を改善しよう
糖尿病患者に起こる貧血は、腎臓の働きの低下が原因の可能性があります。
赤血球を作るホルモンが不足したり体内の鉄分がうまく使われなくなったりして、強いだるさや疲労感が現れ、普段の生活に支障をきたす場合があります。
そのため、早めに医師に相談し、貧血の種類を見極めるのが大切です。
日々の食事を見直したり、ヘモグロビン値の目標を医師と設定したりすると、貧血改善や糖尿病の管理の安定につながります。
少しでも症状を感じたら、ためらわずに病院を受診し、体調の変化を医師に相談してください。

