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血糖値を下げる運動の仕方とは?手軽な有酸素運動とレジスタンス運動も解説

血糖値を下げる運動の仕方とは?手軽な有酸素運動とレジスタンス運動も解説

糖尿病の治療は食事療法、運動療法、薬物療法の3つの視点で進められます。

糖尿病治療ガイドでは、2型糖尿病の治療の基本として、軽症から中等度の症例では食事療法と運動療法を行うとされています。

食生活を見直し運動量をアップすると血糖値は良好にコントロールされ、健康な人と変わらない生活が送れます。

運動を治療の一環と捉え、積極的に運動療法を生活に取り入れましょう。

この記事で分かること
  • 運動すると血糖値が下がるメカニズム
  • 血糖値を良好にコントロールするための具体的な運動方法
  • 運動を継続するための注意点

自分に合った運動方法が分からない人は、ぜひ本文を参考にしてください。

目次

なぜ運動すると血糖値は下がるのか

なぜ運動すると血糖値は下がるのか

食事で摂取したブドウ糖が多く使われるのは内臓、そして骨格筋です。

体内に入ったブドウ糖は、すぐに使われない分を肝臓や筋肉に蓄えます。

血糖コントロールでは血液中のブトウ糖と脂肪を効率よく消費し、蓄えた分のブトウ糖と脂肪を積極的に使用するのが重要です。

運動が血糖値にもたらす影響について、詳しく解説します。

血糖値が下がるメカニズム

血糖値が下がるメカニズム

血糖値をコントロールするのは、膵臓から分泌されるインスリングルカゴンです。

2つのホルモンの働きで、血糖値を一定に保っています。

インスリンは血糖値の上昇を感知すると分泌されるホルモンで、グルカゴンは血糖値の低下に反応し分泌されるホルモンです。

膵臓からインスリンが分泌されると、ブドウ糖を細胞に取り込む作用が促進されます。

運動は細胞に糖を取り込むインスリンの機能を肩代わりしているため、運動不足の状態ではブドウ糖を細胞内に取り込む能力が低下し、血液中に使われない糖の多い状態になります。

遊離脂肪酸は運動によって脂肪組織から血液中に放出され、エネルギー源として使われる物質です。

遊離脂肪酸が運動不足で適切に消費されないと中性脂肪として脂肪組織に蓄えられ、内蔵脂肪から分泌される物質がインスリンの作用を妨げ、結果的に血糖値が上昇します。

インスリン抵抗性とは、インスリンは分泌していても効果が十分でなく、細胞が十分に糖を取り込めない状態をいいます。

運動不足と糖尿病の発症

全身の持久力であり、呼吸循環器系の予備力を有酸素運動能力と呼びます。

ブドウ糖負荷試験を行った研究によって、有酸素運動能力が低下している人ほど糖尿病の発症率が高いと判明しました。

健常者を①35日間ベッド上で絶対安静にさせたグループ、②ベッド上で1日60分間足運動をさせたグループ、③コントロール群に分け、ブドウ糖負荷試験を行った結果、②のベッド上で運動したグループでは、血糖値と血中インスリン濃度の上昇が抑えられているのに対し、①のベッド上で安静にしていたグループでは血糖値と血中インスリン濃度が③のコントロール群」と比較して、かなり高い値を示しております。

引用元:糖尿病患者さんになぜ運動が必要か 糖尿病ネットワーク

この結果から、インスリンが十分に分泌されているにも関わらず血糖値が上昇したため、インスリンの作用不足が起きたと考えられます。

インスリンの作用不足の改善にはトレーニングが有効ですが、効果は3日ほどで失われるため継続的な運動が重要といえます。

運動によってインスリンの働きを高めることができます。
また食事面からの対策も併せて行うと効果的です。

食事面での対策を知りたい方はこちらの記事もぜひ参考にしてください。

血糖値を良好にコントロールするための具体的な運動方法

血糖値を良好にコントロールするための具体的な運動方法

血糖値をコントロールするために重要なのは、有酸素運動レジスタンス運動と呼ばれる筋力トレーニングです。

血糖値コントロール 運動方法

最近の研究では、有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせがもっとも良い効果が得られると分かりました。

特に食後に5分程度体を動かすと、血糖値の安定に役立ちます。

しかし自己流で体を動かしたり、これまで運動習慣がなかった人が急激に運動し始めたりすると、膝や腰を痛める原因になります。

さらに有酸素運動と筋力トレーニングのどちらか一方にだけ偏る運動方法では、血糖コントロールが良好にできません。

準備体操とクールダウンをしっかりと行い、最初は軽めの運動から始めて少しずつ負荷をかけていきましょう。

運動を始めるために必要なことは、以下の通りです。

運動を始めるにあたって
  • メディカルチェック
  • 有酸素運動とレジデンス運動への知識を持つ運動の強度、時間
  • 運動上の注意点

メディカルチェック

メディカルチェックとは医師に心臓の機能腎機能関節の動きなどを調べてもらい、どのような運動が体にあっているかを判断してもらうことを指します。

運動時に配慮する点は一人ひとりで違うため、事前に医師に運動の負荷や強度を確認するとトラブルを防げます。

病院を受診する際には、運動療法を始めたいため診察を受けたいと伝えましょう。

有酸素運動とレジスタンス運動への知識を持つ

有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせて行うと、筋肉量を維持しながら脂肪を燃焼できるため血糖コントロールに効果があります。

筋肉は主に速筋と遅筋という2種類の繊維で合成されており、有酸素運動とレジスタンス運動では鍛えられる筋肉が異なります。

速筋瞬発的に力を発揮する筋肉なのに対し、遅筋持久力が必要な運動に向いている筋肉です。

遅筋を鍛えると長期間同じ力を発揮できるようになり、年齢によって左右されない筋肉になるといわれています。

運動療法を継続して取り組むには、有酸素運動とレジスタンス運動どちらもバランスよく行う必要があります。

有酸素運動とは

各運動への知識1

有酸素運動とは、大きい筋肉を使ってする全身運動です。

筋肉に取り込まれたブドウ糖を、効率的にエネルギーに変換して使用できます。

酸素を取り込んで筋肉を動かすため、脂肪と糖質を使ってエネルギーを作ります。

ウォーキングやジョギング、水泳やヨガ、サイクリングおよびラジオ体操などが一般的な有酸素運動です。

有酸素運動は1週間で150分以上が推奨され、1日にすると20~30分程度の運動時間が望ましいとされています。

特に糖尿病患者は、1日3回食後に15分間の運動を行うと、急激な血糖上昇が抑制され良好な血糖コントロールが期待できます。

レジスタンス運動とは

各運動への知識2

レジスタンス運動とは筋肉に負荷をかける運動を指します。

腹筋運動や腕立て伏せ、スクワットやダンベルなどが代表的なレジスタンス運動です。

負荷をかけて繰り返し運動すると、筋繊維が傷つき修復が促されると徐々に元の筋肉より太くなっていき、筋肉量が増えていきます。

人間の体は生命を維持するだけでもエネルギーを消費するため、筋肉量が増えると基礎代謝が上がり太りにくい体が作れます。

有酸素運動を続けて行える体を作るため、積極的にレジスタンス運動を取り入れましょう。

運動の強度

自分の感覚で楽に感じる、もしくはややきついと感じる範囲で行います。

軽く息が弾む程度の運動を、目指すと良いでしょう。

運動中の心拍数は、下記が推奨されています。

  • 50歳未満:100-120拍/分
  • 50歳以降:100拍/分

不整脈などで心拍数を指標にできない人は、事前に医師に確認しましょう。

運動の強度・時間

運動の時間

有酸素運動の場合は、20分以上継続して運動することが望ましいとされています。

皮下脂肪や内臓脂肪が分解されてエネルギー源として利用が促進されるのが、運動して20分後であるためです。

しかし、運動直後から血液内の脂肪は燃焼されているため、こまめに体を動かしていきましょう。

糖尿病患者の運動による血糖コントロールは、12〜72時間持続するとされています。

毎日運動するのが困難な場合は1日おきか2日おきに行うようにすると、効果が継続します。

具体的にはウォーキングを1回15〜30分間、1日2回行うといいでしょう。

レジスタンス運動の場合は、1日あけて週に2-3回の実施が推奨されています。

スクワットを例にあげると、1回10~15回を1日に3回を目安に行うとよいです。

膝に負担がかからないよう、椅子を使用するなどし、自分のペースで無理なくコツコツと取り組みます。

日常生活の中で意識的に体を動かすのも、血糖コントロールに良い影響を与えます。

掃除機をかける部屋を増やしたり、いつもは行かない公園に足を伸ばしたりと座ったままでいる時間を減らす心がけが重要です。

以下の表では、体重50㎏の人が100Kcal消費するのに必要な生活活動と時間の目安をまとめました。

生活活動時間
歩行、屋内の掃除、炊事約30分
早歩き、自転車に乗る、子どもと遊ぶ、犬の散歩、雪かき、庭仕事約25分
子どもと活発に遊ぶ、動物と活発に遊ぶ、山登り約20分

運動強度が高いほど、短時間の生活活動でも効果を感じられるでしょう。

誰でも簡単!年齢を重ねていてもおこないやすい運動方法を紹介しています。こちらもご覧ください。
【簡単】血糖値を下げるためにおススメの運動とは?

有酸素運動の例

有酸素運動の例

有酸素運動にはウォーキングやジョギング、水泳やヨガ、サイクリングおよびラジオ体操があります。

ここではウォーキングやヨガを例に、具体的な運動の仕方を紹介します。

有酸素運動の例

ウォーキング

背筋を伸ばして大股になるよう意識し、腕は軽く振って膝を伸ばしてかかとから着地します。

膝や腰に痛みを感じた場合はすぐに休憩し、無理をしないようにしましょう。

少しずつ距離を延ばすことを目標にし、できる範囲で取り組みます。

  • 1回につき15-30分、1日に2回行う
  • 1日の中で1万歩歩く

ウォーキングは、いつでもどこでもできるのが利点です。

まとまった時間が取れない人も通勤や買い物などで歩行距離を伸ばし、体を動かす時間を増やせます。

ウォーキングはどこでも手軽に取り組める運動ですが、単調になりやすく飽きてしまい継続できなくなるケースがあります。

距離数にはこだわらずルートを変えたり、自然を楽しめるコースに挑戦したりし、楽しんで取り組めるような工夫をしましょう。

さらに、ウォーキングの合間にふくらはぎを鍛えるのも効果的です。

壁などに手をついて、両足で立った状態でかかとをゆっくりと上げ下げします。

 1日に10〜20回を目安とし、3セット行うことを目指しましょう。

ヨガ

ゆっくりと呼吸を意識しながら前屈したり、両腕を天井に伸ばし続けたりするだけでも普段の生活で使わない筋肉が使われます。

わき腹に注意を向けて真横に体を動かすと、腹囲にも効果的です。

座ったままだと血糖値だけでなく、腹囲も増加しコレステロールの値も増加します。

デスクワークの人は30分ごとに2〜3分立ち上がり、ストレッチをしたり、歩き回ったりするだけでも効果があります。

ジャンプ

両手を腰に当て、つま先をつけたままジャンプします。

40秒ジャンプを続け、20秒休憩を1セットにし5分間行いましょう。

難しい場合は、1セットから始めて徐々に長くしていくとよいです。

レジスタンス運動の例

レジスタンス運動の例

レジスタント運動には、腹筋運動や腕立て伏せ、スクワットやダンベルがあります。

一例としてスクワットヒップエクステンション膝伸ばし階段昇降について説明します。

手軽に取り組めるものから試し、少しずつ筋肉量を増やしていきましょう。

鏡を見て行うと危険の防止に役立ち、体型の変化にも気付きやすくなるためおすすめです。

レジステンス運動の例

スクワット

スクワットはしゃがみ込んでから立ち上がる動作を繰り返し、下肢全体を鍛えられる運動です。

胸を張った状態をきちんと保てると、腹筋背筋にも効果があります。

  1. 足を肩幅に開き、背筋を伸ばす
  2. つま先と膝は同じ向きでゆっくり膝を45度に曲げる
  3. 呼吸は止めずに、使っている筋肉に意識を集中させる10回1セットとして2~3セット行う

つま先より前に膝が出ないようにすると、太ももの筋肉お尻の筋肉をより効率的に鍛えられます。

ふらつく人は壁や椅子を使用して、転倒を防止しましょう。

ヒップエクステンション

ヒップエクステンションは、大殿筋ハムストリングスを効果的に鍛える運動です。

下半身の中でも大きな2つの筋肉を鍛えると、基礎代謝が上昇し血糖コントロールが期待できます。

  1. 背筋を伸ばし、腰の位置を動かさないようにお尻の下の方に力を入れる。
  2. 3秒間でかかとを床から離し、1秒保持
  3. また3秒間かけて足を元にもどす

椅子や壁を使って、上半身をまっすぐ伸ばすように注意します。

膝伸ばし

膝を曲げて伸ばす運動は、関節の動きを滑らかにし膝関節の可動域を広げられます。

  1. 背筋を伸ばして椅子に座る
  2. ゆっくりと右足を持ち上げ、膝を伸ばし5秒保つ
  3. ゆっくりと戻す

膝関節周囲の筋肉を鍛えると、ウォーキングやジョギングで膝を痛めずに行えます。

階段昇降

階段昇降は以前まで週に70分実施しなければ効果がないとされていましたが、近年の研究で少ない時間でも効果が得られると分かりました。

わずか20秒の上り下りでも効果があるとされているため、無理のない範囲で階段を使用するとよいでしょう。

体が慣れてきたら20秒間早めに上り下りし、次の20秒はゆっくりした昇降を繰り返し、1回30分を目標に実施するとより血糖コントロールに効果が期待できます。

体力に不安がある方ご高齢の方は関節に負担をかけず、軽めの有酸素運動や筋力トレーニングをおすすめします。
運動は無理せず、楽しみながら続けることが大切です。

食事面からの対策をお考えの方は「糖尿病撃退の決め手になる!薬科大学・国立大学が注目する効果とは」の記事もご確認ください。

運動上の注意

運動療法は糖尿病の悪化を防ぐために効果がありますが、正しく行わなければ症状の悪化や心筋梗塞などの重大リスクを伴う恐れがあります。

運動を継続して行うための注意点については、次のとおりです。

運動上の注意点
  • 血糖降下薬で治療中の人は、運動量が多い場合低血糖状態を引き起こしてしまうため補助食品を準備する
  • 運動の前後に5分ほど準備運動を行い、急激に体を動かさないようにする
  • 運動中は自分で思っている以上に汗をかいているためこまめに水分補給をする
  • 運動する時間は食後にし、低血糖を防ぐ
  • 運動の内容は主治医と細かく相談

健康な人は、運動しても低血糖発作はおきません。

しかし、糖尿病患者でインスリン注射や血糖降下薬で治療を行っている場合は、低血糖発作が起きる可能性があります。

血糖コントロールが悪いときは、運動を控えた方がいいため受診時に医師に相談しましょう。

糖尿病の合併症が進行しているときは、運動による血圧の上昇で合併症が重症化する恐れがあるため、自己判断で取り組まないようにします。

日本糖尿病協会では、「みんなおうちでエクササイズ」という動画で運動の仕方を紹介しているため参考にしてください。

参照元:日本糖尿病協会

妊娠糖尿病

妊娠糖尿病

 妊娠中に高血糖となる人は、下記の3種類に分けられます。

  • 妊娠糖尿病:妊娠中に発見された軽い代謝異常
  • 糖尿病合併妊娠:糖尿病の診断をすでに受けている人が妊娠した状態
  • 妊娠中の明らかな糖尿病:診断されていないが、以前より高血糖の状態であったと思われる代謝異常
妊娠中の高血糖

妊娠糖尿病の疑いがある人は精密検査後、食事指導や運動指導を受けることになります。

自己判断では行わず、必ず医師に相談してから運動療法を開始しましょう。

妊娠中にも行える有酸素運動もあるため、食後に準備体操をしてから取り組みます。

子どもと自身の健康を守るために、適切に血糖コントロールを行いましょう。

継続的に取り組むために

運動を始めると爽快感や体の変化を感じ、楽しみながら継続できます。

しかし、有酸素運動の楽しさは長くは続きません。

最初は順調に減っていた体重も、だんだん減りにくくなります。

効果がないと感じてしまうと、毎日継続して行うことは難しいです。

糖尿病を発症した人にとって運動療法は治療で、必ずしなければならない生活習慣の一つと捉えて取り組む必要があります。

血糖値の変動は目には見えず、長期的にモチベーションを保つのは難しいです。

運動をやめた途端に血糖コントロールがうまくいかなくなる症例は、いくつもあります。

健康的に過ごすためにも、やらなければならないこと、自分には必要なことと割り切り運動を継続しましょう。

また、運動を毎日しているにも関わらず、病院の定期受診で思ったほど血糖が下がらない経験をした人もいます。

運動の内容を振り返り、レジスタンス運動を増やした方がいいのか、など自分で検討することも必要になります。

この検討を何度も行い、自分自身で血糖コントロールのために運動の管理をしていけるようになるのが最終目標です。

健康な人と同じ生活をするために、継続できる運動を取り入れ血糖値を良好にコントロールしていきましょう。

血糖値をコントロール

この記事の監修者

東京医科大学を卒業後、複数の総合病院内科、東京医科大学病院 糖尿病代謝分泌科を経て、現在の四谷内科・内視鏡クリニックの副院長に就任。


糖尿病専門医でありながら、見逃されやすい内分泌疾患にも精通した総合的な診療をおこなう。

日本糖尿病学会
糖尿病専門医

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