糖尿病と診断されると、インスリン注射を思い浮かべる人が多くいますが決してインスリン注射だけが糖尿病の治療法ではありません。
インスリン注射は、膵臓で作られる「インスリン」というホルモンが不足した場合にそれを補うために行う注射です。
インスリン注射をする治療の仕方をインスリン療法といい、糖尿病治療のひとつとして取り入れられています。
では、インスリン療法はどのような治療なのでしょうか。
この記事では、糖尿病を悪化させないためのインスリン治療について詳しく説明していきます。
- 糖尿病とインスリンの関係性
- インスリン療法とは
- インスリン療法をするうえでの注意点
糖尿病は体内のインスリンが不足する病気
糖尿病(2型糖尿病)は、遺伝や糖分の摂り過ぎや運動不足によって血糖が異常に高くなる病気です。
本来は、血糖が高くなると膵臓からインスリンという血糖値を下げるホルモンが放出され、体内の血糖値のバランスを保っています。
糖尿病になるとインスリンが上手く分泌されなかったり、インスリン自体はしっかり分泌されているものの血糖値が下がらなかったりと血糖が高い状態が続いてしまうのです。
インスリンは2種類の分泌方法があり、それぞれ担っている役割が異なります。
- 基礎分泌:血糖値を一定に保つ役割を担い、常に一定量分泌されている。
- 追加分泌:食事の血糖値上昇を抑える役割を担い、短時間で多量分泌される。
糖尿病はこの2種類の分泌方法がバランス良く保てないため、血糖値がうまくコントロールされません。
そして糖尿病も2種類あり、それぞれインスリンとの関係性が異なります。
- 1型糖尿病:基礎分泌と追加分泌の両方が足りず、血糖値を調整できない
- 2型糖尿病:インスリンの追加分泌が不十分または分泌していてもインスリンの効果が発揮されず、血糖値を調整できない
1型糖尿病は、免疫異常などが原因であるのに対して、2型糖尿病は生活習慣が原因です。
そして、2型糖尿病の多くは中高年で発症し、ほとんどが健康診断がきっかけで診断されます。
では、糖尿病はどのように診断されるのでしょうか。
糖尿病の診断には、主に以下の検査を行います。
- 空腹時の血糖(空腹時血糖)測定
- 食事の有無に関係しない血糖(随時血糖)測定
これらの検査を異なる日付で2回おこない、その結果を踏まえて診断基準を満たした場合に糖尿病と診断されます。
加齢とともにインスリンの分泌量は減少していってしまいます。
また、日本人はもともとインスリンの分泌が少ないので、インスリンの効き目を高める工夫が大切です。
インスリン量の分泌を増やすこちらの研究レポートもご確認ください。
インスリン療法とは
インスリン療法は、体内でインスリンの分泌が不十分またはインスリンが十分に働かず血糖値が下がらない場合に、注射という手段で身体の外からインスリンを補充する治療です。
ここでは、インスリン治療について解説していきます。
インスリン療法が必要な場合とは
はじめに、治療をするうえで基本的にインスリン注射が必要な場合の例を紹介します。
- 自分自身の身体で分泌されるインスリンが無いに等しい場合
- 高血糖による昏睡状態に陥っている場合
- 肝硬変などの重い肝障害、腎機能障害がある場合
- 外科手術を行う場合
- 重度の感染症や外傷(ケガ)がある場合
- 妊娠糖尿病や食事療法だけでは妊娠中の血糖値をうまくコントロールできない場合
次に、インスリン注射をした方が良い場合の例を紹介します。
- 体内で分泌されるインスリン量が不十分で、血糖値を適正に保たれない
- 内服治療、食事や運動療法だけでは効果が不十分である
- 痩せ型で栄養状態が悪い
- 糖尿病以外の病気で、血糖値を上げる作用のある薬の使用が必要である
- 1型糖尿病の一種類で、緩徐進行性1型糖尿病である
このような場合は、インスリン注射を提案される場合が多いですが、絶対必要という訳ではありません。
インスリン療法の良い点と悪い点
インスリン注射と聞くと、注射は痛いというイメージが一番に浮かぶ人も多く、治療に対して良いイメージを持っていない人も少なくありません。
いかなる病気に対しての治療でも、良い点と悪い点を天秤にかけて自分のライフスタイルに合った治療法を選択する必要があります。
インスリン療法についても、良い点や悪い点について知っておくと、どのような治療を受けるか選択するうえで自分にとって非常に有益です。
ここからは、インスリン療法の良い点と悪い点についてそれぞれ説明していきます。
良い点
インスリン治療は、糖尿病の治療を継続していくにあたっていくつか身体に良い点があります。
膵臓の機能が回復しやすい
膵臓は、血糖値が高い状態が続くと多くのインスリンを出そうと働き続けるため、糖尿病になると膵臓の機能が健康な人に比べて弱くなりがちです。
インスリン療法を提案された時点でなるべく早くに治療を開始すると、弱った膵臓が一時的に休まり機能そのものの回復が期待できます。
血糖値のコントロールが安定すると、医師の判断で再び内服薬に変更できる可能性も出てきます。
合併症のリスクが抑えられる
糖尿病の最も恐ろしいところは合併症で、合併症の予防が糖尿病治療をするうえで最も大切です。
血糖が高い状態が続くと動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中など命に関わる疾患や合併症を引き起こす原因となります。
しかし、インスリン療法を導入し、早い段階で血糖値が厳密にコントロールされると、可能な限り合併症を予防できます。
血糖値コントロールが安定すると注射から内服に戻せる可能性もある
血糖値のコントロールを強化するためのインスリン療法は、膵臓の機能回復が期待できます。
インスリン療法によって血糖の数値が安定してくると、膵臓の負担を軽くできるため再び内服治療に戻して治療を継続する人は多いです。
悪い点
インスリン治療自体の欠点は、身体的な副作用等ではなく自分自身のライフスタイルを治療に合わせて調整する必要があるところです。
内服治療に比べて金銭面の負担が増える
インスリン療法は、内服治療と比べて注射に使用する針や消毒など購入するものが増えるため、結果的に医療費自体が増額します。
通院費用を少しでも抑えたいと思うと、なかなかインスリン療法に踏み込めないという人も多くいます。
自己注射の手技を覚える時間や日常的に注射をする手間がかかる
インスリン療法は自分でインスリン注射をする必要があるため、練習する時間や手間がかかります。
注射の仕方や注意点を覚えるために通院回数が増える場合や、手技を覚えるために入院が必要な場合もあります。
働き盛りの患者さんにとって、仕事と治療の両立が難しいという理由から、インスリン療法に対してネガティブに捉えてしまう人も多いです。
自己管理が必須な治療法
インスリン療法は、決まった時間に注射をする必要があるため注射を忘れると高血糖になり、注射のタイミングが早すぎると低血糖を引き起こします。
他にも体調が悪い時(シックデイ)は治療上決められたルールがいくつかあり、自分自身で対処が必要になります。
しかし、インスリン治療は健康面で良い点が多くあり、必ずしも悪い点ばかりというわけではありません。
悪い点が極端に少ない人もたくさんいるため、医師と相談しながら自分のライフスタイルに合った治療の方法を選択しましょう。
インスリン製剤の種類
インスリン製剤は様々な種類があり、大きく6種類に分類されています。
薬の種類 | 注射のタイミング | 対象 |
---|---|---|
超速効型インスリン製剤 | 食事に合わせて注射する | ・インスリンの追加分泌が不足している場合 ・注射後すぐに効果が出るため食後の高血糖を抑える |
速効型インスリン製剤 | 食事に合わせて注射する | ・インスリンの追加分泌が不足している場合 ・超速効型インスリンに比べると比較的ゆっくり効く |
中間型インスリン製剤 | 食事に関係なく決まった時間に1日1回注射する | ・インスリンの基礎分泌が不足している場合 ・注射後にゆっくりと効き始め、1日中効果がある |
持続型溶解インスリン製剤 | 食事に関係なく決まった時間に1日1回注射する | ・インスリンの基礎分泌が不足している場合 ・1日中安定した効果があり、中間型よりも長く効く |
混合型インスリン製剤 | 食事に合わせて注射する | ・インスリンの基礎分泌と追加分泌が不足している場合 ・食後の高血糖を抑えるとともに1日中安定した効果を発揮する |
配合溶解型インスリン製剤 | 食事に合わせて注射する | ・インスリンの基礎分泌と追加分泌が不足している場合 ・食後の高血糖を抑えるとともに1日中安定した効果を発揮する |
上記のように、インスリン製剤は種類ごとに作用する時間や特徴が異なるため、医師がそれぞれの患者に見合ったインスリンを選択して使用します。
・食後や空腹時の血糖値を抑制する
・インスリンの効き目を高め分泌を促す
など、糖尿病予防におけるポリフェノールの研究が進んでいます。
ぜひ、こちらの記事も確認してみてください。
薬科大学・国立大学が注目するポリフェノール研究
インスリン療法をするうえで気を付けること
インスリン療法をする場合は、注射ができるようになる必要がある他にいくつか自己管理が必要となります。
接種箇所を守り、皮膚の状態の確認を
インスリン注射は、手順のほかに注射場所についても決まりがあります。
一般的に注射をする場所は腕や太もも、おしりやお腹を選択します。
そして、接種の際は1回の注射ごとに接種場所を2〜3cmずつ変える必要があるのです。
注射をする際は、自分がこれから注射しようとしている場所の皮膚が硬くないか、前回と同じ場所ではないかを確認してから注射をする必要があります。
血糖値を測って記録する
インスリン注射を行っている場合は、毎日決められたタイミングで血糖を測定し、ノートなどに記録する必要があります。
これはインスリンを処方した医師が、インスリンの処方を継続して処方するのか、処方する薬を変えるのかなど診療していくうえでの判断材料となるためです。
もちろん病院を受診した時にもHbA1cや血糖値、尿検査を行う必要はありますが、日々の血糖値の推移(経過)も重要な診断の指標として用いられます。
低血糖症状に気をつける
インスリン製剤は、注射してから決まった時間に必ず血糖を下げる作用が働きます。
ここで、よくありがちな行動を例として紹介します。
- 食前のインスリン注射をしたものの仕事で食事を食べそびれてしまった
- インスリン注射をして食事をした後、激しい運動をした
上記のような行動は、ブドウ糖の摂取不足あるいはブドウ糖の消費量が多いために低血糖を引き起こします。
しかし、低血糖を過剰に恐れて自己判断でインスリン注射を中止したり、内服薬を自己中断したりする人もいます。
薬の自己中断は血糖コントロールの悪化を招くため、心配な場合は医療機関への受診が必要です。
低血糖の症状
ここでは低血糖の症状と、症状が出現する血糖値の目安となる数値を説明します。
血糖値 | 症状 |
---|---|
70~140mg/dL:正常 | なし |
45~60mg/dL:低血糖(軽度) | 異常な空腹感、倦怠感、冷や汗、動悸ふるえ、熱感、注意散漫(集中できない)悪心、生あくび |
30~45mg/dL:低血糖(中程度) | 眠気、脱力感、めまい疲労感、集中力低下、混乱言葉が出にくい、目のかすみ時間、場所、日付が分からない元気がない、気分の落ち込み、不安感 |
30mg/dL以下:低血糖(重度) | 意識混濁(朦朧とする)、異常行動痙攣昏睡状態 |
表のように、低血糖は症状が軽度なら自分で対処できますが、進行するにつれて症状は重症化していくため必要に応じて入院治療をする場合もあります。
低血糖症状が出た時の対処法
ここでは、低血糖症状が出現した際の対処法について説明します。
低血糖を起こしやすい状況の例を紹介します。
- 食事量が少ない、あるいは食事の時間がズレた
- いつもより運動量が多かった、空腹時に運動してしまった
- 投与するインスリン製剤を間違えてしまった(複数インスリンを使用している場合)
- インスリンの投与時間が不適切だった(投与時間と食事時間のズレ)
上記のような状況は、低血糖が起きやすいため極力避ける必要があります。
低血糖かもしれないという症状があった時は、糖分を摂取して約15分程度は横になり安静にしましょう。
以下、糖分を摂取する目安です。
- ブドウ糖10g(薬局やドラッグストアで購入が可能)
- ブドウ糖を含む清涼飲料水(150〜200mL程度)
- 砂糖20g
糖分を摂ってから15分程度安静にしても改善がない場合は、速やかに医療機関を受診し医師の診察を受ける必要があります。
低血糖が進行すると意識消失を引き起こす可能性があるため、受診する際は自分で運転せず、必要に応じて救急要請をしましょう。
特に、インスリン注射を始めて間もない場合は、低血糖を引き起こす頻度も高いです。
加えて、低血糖症状について周囲に話をしておくと、もしもの時の手助けとなるため周りの人に対しても自分が低血糖を起こしやすいという旨を伝えておきましょう。
シックデイ時の過ごし方
糖尿病治療に欠かせないのが、シックデイ(風邪などの体調不良時)の対策です。
シックデイの時は、食欲の減少や発熱、嘔吐などの症状によって脱水や血糖値の変動を起こしやすくなります。
このようなシックデイには、血糖値を安定させるために薬の服用方法を変える必要があったり、血糖値を測定したりと自己管理が必要な場面が多いです。
ここからは、シックデイの対策について説明していきます。
身体の状態を記録に残す
体温や食事を摂取した量、体調の変化についてノートやスマートフォンに記録し、受診の際主治医に正確な情報を伝えます。
特に、薬を服用するかしないかについての判断は血糖値を参考に判断していく場合が多いため、シックデイでも自己血糖測定と記録は必要です。
体調が悪いために自己血糖測定ができないという場合は、可能な限り家族や周囲の人に協力してもらい血糖を測定しましょう。
不安な時は迷わず受診を
シックデイには、以下のように病院を受診する目安がいくつかあります。
- 血糖値が350mg/dL以上の高血糖である場合
- 血糖値が250mg/dL以上の高血糖が持続している場合
- 尿糖の陽性やケトン尿が出た場合
- 高熱(38.5度以上)が長引いている、解熱剤を使用しても解熱しない場合
- 食事が取れない、嘔気や嘔吐、下痢の症状がある場合
- 2日以上経過しても症状が改善しない場合
- 薬の量の加減が分からない、インスリン注射の判断に困る場合
上記の他に、心配な症状があった場合には躊躇わず受診しましょう。
症状を悪化させないために
シックデイの時は、なるべく全身の状態を悪化させないように血糖値以外にも気を配る必要があります。
ここで、4つのポイントを紹介します。
- こまめな水分補給をする(水やお茶を摂るようにし、スポーツドリンクは極力避ける)
- 体を冷やさないよう気をつけながら体温を温存する
- 糖質を程よく含み消化の良い食べ物を摂取する(おかゆ、うどんなど)
- インスリン注射を自己判断で中止しない(食事が摂れなくても注射は必要)
特に、インスリンや血糖下降薬の自己中断は急な血糖値の変動を引き起こすため、判断に迷った場合はかかりつけの医療機関へ連絡する必要があります。
注射するインスリンの単位調整について
インスリン製剤を注射している場合には、注射の際に単位数の加減が必要です。
基本的には、食事の量に応じてインスリンをどのくらい加減するのか決めていきます。
1.食事量による単位の調整方法
いつもの食事摂取量を基準にして、そこからどのくらい食事量が減ったかによって、注射するインスリンの単位数を減らしていきます。
例)いつもの食事量の半量を摂取した場合:インスリンの単位も半分にする
2.血糖値による単位の調整方法
例)食前の空腹時血糖が80mg/dL以下:インスリンの単位も10%減らす
このように、シックデイの場合はインスリンの単位を調整する必要があるため、体調が悪い時には躊躇せずかかりつけ医へ相談しましょう。
ライフスタイルを考えて継続可能な治療の選択を
糖尿病には内服療法をはじめいくつかの治療法がありますが、どの治療においても治療そのものの継続が最も大切です。
インスリン療法を勧められたからといって、インスリン療法が唯一の残された治療法という訳ではありません。
インスリン療法は内服療法と比較すると細かい自己管理が必要と聞くと、面倒に感じたり、多少の抵抗感を感じたりする人もいるのではないでしょうか。
そして、最も大切なのは合併症の予防です。
合併症の予防のためには、前述したように自分が継続できる治療法を選択する必要があります。
数ある治療の選択肢から、どの治療が自分自身のライフスタイルと合っているのか、継続可能かを考えて自分に見合った治療を医師と相談しながら選択しましょう。
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