膵外分泌機能不全症とは
膵外分泌機能不全(Exocrine Pancreatic Insufficiency:EPI)は、膵臓が持つ消化酵素を分泌する能力が低下することで、食事から栄養を十分に吸収できなくなる病気です。膵臓は、自覚症状が現れにくい臓器の一つですが、その働きが損なわれると、体全体の健康に大きな影響を与えることになります。特に影響を受けやすいのが、脂質・たんぱく質・炭水化物の消化吸収です。これらの栄養素はエネルギー源や体の構成材料として不可欠ですが、消化酵素が不足すると小腸でうまく吸収されず、栄養不良や体重減少、便通異常といった症状が起こるようになります。膵外分泌機能不全症の原因はさまざまで、慢性膵炎、膵癌の術後などが挙げられます。膵外分泌機能不全症は早期に発見されることは稀で、症状が出てから初めて診断に至ることも多いため、消化不良や体重減少が続く場合は早めの医療機関の受診が必要となります。
膵臓の外分泌機能のはたらき
膵臓は大きく「内分泌機能」と「外分泌機能」の2つの役割を担っています。内分泌はインスリンやグルカゴンなどのホルモン分泌を通じて血糖値を調整する働きがあり、外分泌は食べ物を消化しやすい状態に分解する「消化酵素」を分泌する機能です。
膵臓の外分泌機能
膵臓の外分泌機能は、食べ物を消化するための酵素をつくり、小腸へ送り出す働きがあります。主に炭水化物を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するプロテアーゼ、脂質を分解するリパーゼの3つの消化酵素が分泌されます。これらの酵素が正常に機能することで、私たちは食事から必要な栄養素を効率よく吸収することができます。そのため、膵臓の外分泌機能の働きが低下すると、消化不良や栄養障害が生じることが知られています。
代表的な膵消化酵素
アミラーゼ
炭水化物(でんぷん)を分解してブドウ糖などに変える酵素。ご飯・パン・麺類などに多く含まれるでんぷんの消化に必要となります。
プロテアーゼ
たんぱく質やペプチド中のペプチド結合を加水分解する酵素の総称をいいます。 肉・魚・大豆製品などが対象となります。
リパーゼ
脂質を脂肪酸とグリセリンに分解する酵素。油脂、肉の脂身、乳製品などを吸収するために不可欠といわれています。
膵外分泌機能不全の症状
膵外分泌機能が低下すると、食べたものをうまく分解できない「消化不良」の状態になります。未消化のままの食物が腸を刺激したり、そのまま便として排出されたりすることで、以下のような症状が生じます。
膵外分泌機能不全の主な症状
- 慢性的な腹部膨満感や腹痛が続く
食後にお腹が張ったり、痛んだりすることがあります。 - ガスが増加する(おならが多くなる)
未消化の糖や脂質が腸内細菌によって発酵され、ガスを発生させます。 - 排便回数の増加する
軟便や下痢が多くなり、1日2〜3回以上の排便が続くこともあります。 - 脂肪便※が出る
油っぽくて量が多く、淡黄色で悪臭が強い便であり、水面に浮くこともあり、拭き取りにくいといわれています。 - 体重減少・栄養不良が生じる
食事量は足りているのに、栄養が吸収されず痩せてしまう状態をいいます。
これらの症状がある方は、膵外分泌機能に異常が発生している場合がございます。些細な症状でも気になることがあればお早めにご相談ください。
※脂肪便
- 一回の排便量が非常に多い(200g/日以上)
- 油が混じったようなツヤのある便
- においがきつく、1日に複数回出ることがある
- 下痢というよりも、粘土のようなやわらかい便
膵外分泌機能不全の治療(膵消化酵素薬補充療法)
膵外分泌機能不全に対する基本的な治療は「不足した消化酵素を薬で補う」こととなります。これを「酵素補充療法」といい、食事とともに服用することで、食物の分解・吸収を助けることができます。
治療の三本柱
- 消化吸収不良の改善(消化器症状の改善)
- 体重や栄養状態の改善・維持
- ビタミンやミネラル欠乏の予防
処方される酵素薬には、複数の酵素を含む一般的なタイプと、より高い力価で効き目が強いタイプ(高力価膵消化酵素薬)があります。医師の判断の元に、患者様の体重や症状、食事内容によって適切な薬の種類と量をご提案させていただきます。
膵外分泌機能不全の治療(食事療法)
薬物療法に加え、適切な食事も不可欠となります。膵外分泌機能不全の方は、食事の摂取量を減らしてしまう傾向がありますが、これはかえって逆効果になる場合もあります。しっかりとエネルギーと栄養素を摂ることも重要です。
推奨される栄養量(標準体重をもとに)
- カロリー:30〜35kcal/kg
- 脂質:40〜70gまたは総エネルギーの30〜40%
- たんぱく質:1.0〜1.2g/kg
脂質を避けすぎるとエネルギー不足になります。酵素薬を十分に活用しながら、適切な脂質を摂るようにしましょう。必要に応じて、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)、鉄、亜鉛などの補給も行う必要があります。
食事 | 摂取脂肪量の目安 |
---|---|
ごはん1杯(150g) | 脂肪 約0.6g |
味噌汁1杯(なめこ) | 脂肪 約0.6g |
バタートースト1枚(食パン60g) | 脂肪 約7.5g |
野菜サラダ+ドレッシング(生野菜105g) | 脂肪 約6.1g |
餃子(100g) | 脂肪 約11.3g |
鶏もも肉の唐揚げ(皮なし100g) | 脂肪 約11.4g |
アジの開き(100g) | 脂肪 約12.3g |
ミートソーススパゲティ(乾85g) | 脂肪 約22.7g |
牛丼(外食) | 脂肪 約24.4g |
豚のロースかつ(100g) | 脂肪 約35.9g |
※膵外分泌機能不全の患者様が1日に必要な脂肪量の目安は、40~70gと言われています。
リパクレオンとは
リパクレオンは、膵外分泌機能不全の治療に用いられる代表的な高力価酵素製剤となります。1カプセルまたは1包に、脂質・たんぱく質・炭水化物の消化に必要なリパーゼ・プロテアーゼ・アミラーゼをバランスよく含んでおり、リパクレオンを食事と一緒に服用することで、消化吸収がスムーズになり、便通や体調が改善されやすくなるといわれています。
膵臓機能の働きが弱体化すると、食物の消化吸収に必要な膵消化酵素が不足し、消化吸収不良や栄養不足の症状、また、便の異常などが生じます。そのため、、脂質・たんぱく質・炭水化物の消化に必要なリパーゼ・プロテアーゼ・アミラーゼをバランスよく含むリパクレオンを服用する場合がございます。
リパクレオン服用における注意点
正しく服用することで、リパクレオンの効果を最大限に引き出すことができます。また、副作用として、下痢・便秘・腹部の膨満感・皮膚症状(発疹やかゆみ)などが出ることもありますので、必ず医師の判断のもとで服用を検討ください。
正しい服用方法
- 食直後に服用(空腹時は効果が低下)
- 噛まずに水で飲む(カプセルは腸溶性)
- 医師の指示量を守ること
服用量の目安
- カプセル:1回4カプセル(150mg)×1日3回
- 顆粒:1回2包(300mg)×1日3回
※症状や食事内容に応じて、量は増減する場合があります。
注意点
- 飲み忘れた場合、医療機関の指示に従ってください。
- 自己判断での中止は禁物となります。
- 糖尿病を合併している方は血糖値にも注意が必要です。
膵臓に負担をかけない生活を送るには
膵臓は繊細な臓器のため、少しのストレスや不摂生が影響を与えることもあります。そのため、薬や食事療法と並んで、生活習慣の見直しも大切となります。
生活習慣のポイント
- 禁酒:アルコールは膵臓に強いダメージを与えるため完全に避ける
- 禁煙:喫煙も膵疾患の悪化要因となる
- バランスの取れた食事:消化の良い食材を選び、ゆっくりよく噛んで食べる
- ストレス管理:過度な疲労や精神的負担をためない生活
- 体重維持:痩せ型の方は特に食事量と栄養素に気を配る
脂質を上手に摂るために
脂質は消化に最も多くの酵素を必要としますが、生命活動において欠かせないエネルギー源となります。そのため、膵外分泌機能不全の患者様でも、正しく脂質を摂ることで健康を保つことができます。膵外分泌機能不全では、脂肪の吸収ができなくなるといわれています。そのため、膵消化酵素薬を服用するとともに、食事による脂質摂取も重要となります。
脂質とリパクレオンの関係
膵外分泌機能不全の患者様が1日に必要な脂肪量の目安は、40~70gと言われています。
通常、脂肪1gの分解には約2,000単位のリパーゼが必要となります。
リパクレオン顆粒300mg=脂肪(目安)10〜16gの分解に相当
※脂肪の分解に必要なリパクレオン量は、膵外分泌機能不全の重症度によって必要量が異なる場合があります。
食事内容に合わせて酵素薬の量を調整しながら、必要な脂質をきちんと摂ることが勧められます。医師や管理栄養士と相談しながら、自分に合った脂肪量と薬量を把握するようにしましょう。
膵外分泌機能不全症でお悩みの方へ
膵外分泌機能不全症は、膵臓から分泌される消化酵素が不足し、脂質やたんぱく質などの栄養素をうまく吸収できなくなる病気です。体重減少や脂肪便、慢性的な腹部の不快感などが続く場合、早めの診断と治療が重要となります。膵消化酵素薬を服用することで、食事からの栄養吸収を助けることができます。また正しい治療と生活習慣の見直しを行うことで、症状の改善と体力の回復も期待できます。気になる症状がある方やご不明な点がありましたらお気軽に四谷内科・内視鏡クリニックまでご相談ください。